大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和25年(オ)383号 判決

上告人両名代理人弁護士正木晃、上告人両名指定代理人板井俊雄及び津田晋介の上告理由について。

自作農創設特別措置法(以下自創法という。)三条一項及び五項の各号の規定は、一般的に政府が自作農創設のため買収する目的物たる土地が右各号所定のいずれかの農地に該当しなければならないことを定めたに過ぎないものである。しかし、政府のなした一定の土地に対する具体的買収処分の有効要件として、その目的物が右各号所定のいずれかの農地に該当すれば足ることを定めた趣旨のものと解することはできない。農地買収計画を立てることは市町村農地委員会の権限であり、農地の買収処分はこの市町村農地委員会の定める農地買収計画に基いてなされなければならないのである(同法六条一項)。それゆえ、買収計画とこれに基いてなされる買収処分とは不可分一体をなすものであり、また、その買収計画はその目的物が同条項各号所定のいずれの農地に該当するかを考察して立てらるべきであり、漫然そのいずれかに該当するであろうというがごとき予想の下にこれを立てることは許されないのであるから、もし目的物が買収計画の根拠とされた農地に該当しないときは、かかる計画に基いてはこれを買収することはできないものといわざるを得ない。このことたるやたまたまその目的物が買収計画の根拠とされた以外の買収し得べき農地に該当する場合にあつてもその結論を異にするものではない。けだしもし然らずとすれば買収計画に基かない買収処分を許容する結果となり、被買収地の所有者の利害を考慮するだけでも到底認容し得ないことは明らかだからである。自創法三条一項及び五項各号による農地の買収はそれぞれその理由を異にし、また、買収される農地の如何は自作農となるべきものに差異を来たすこともあり得るのであり(同条五項四号、五号、同法施行令一七条一項一号、七号参照)、また同条五項による買収にあつては都道府県農地委員会または市町村農地委員会が政府の買収を相当と認めることを前提とし、その認定行為もその目的物が同項各号所定のいずれの農地に該当するかによつてその結論を異にすることあるべきは当然であるから、同法条所定の一の農地として立てられた買収計画を他の農地としての買収計画と見ることは許されないものといわざるを得ないのである。本件県農地委員会は、本件港北地区農地委員会の立てた農地買収計画を審査して裁決することはできるが、その裁決において従来の買収計画と異なる新たなる買収計画を定めたり、又は新たなる買収計画を定めるに等しい見解をもつて、原委員会の定めた買収計画の違法を適法化することはできない(自創法四七条参照)。

されば右と同旨に出でた原判決は正当であり、これと反対の見地に立つ論旨には賛同することを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 真野毅 斎藤悠輔 岩松三郎)

上告指定代理人板井俊雄、同津田晋介の上告理由

自作農創設特別措置法第三条第五項各号のいずれかの要件に該当するものとして農地買収計画が定められた場合、当該農地がその要件には該当していないが、同項各号の他の要件に該当するとき、当該農地買収計画を適法とすべきか否かに関しては、原審判決のように、これを否定的に解するものと、福岡高等裁判所昭和二十四年(ネ)第三九五号事件判決(昭和二十五年四月三日言渡)のように肯定的に解するものとがあつて、下級審の裁判例は未だ統一されていない。これ上告人等があえて法令解釈に関する重要事項として、この点についての御庁の明快な判断を得たいと希望する所以である。

原判決は「自作農創設特別措置法第三条第一項各号に基く農地の買収処分と同条第五項各号に基く農地の買収処分とは、その理由を異にするばかりでなく、後者の場合には、都道府県農地委員会又は市町村農地委員会の買収を相当とする認定行為を要する点において前者とその手続を異にするのであるから、右の両者は別箇の行政処分と認めるのが相当である。」とし、

「また自作農創設特別措置法第三条第五項第三、四号に基く農地買収処分と同項第五号に基く農地買収処分との関係においても、それぞれその理由を異にし、従つて右農地委員会の買収適否の認定も必ずしも同一の結果に帰し得ないことは容易に推測し得られるところであるから、右の両者の間においても行為の同一性はないものと認めるのを相当とする。」と判示して、措置法第三条第一項同条第五項第三、四号に基く買収計画と同法第三条第五項第五号に基く買収行為とは別箇の行政処分であつて、その間に行為の同一性がないとしている。

しかしながら、同法第三条第五項第三、四号に基く農地買収処分と同項第五号に基く農地買収処分との関係についてみるに、この両者はいずれも当該農地を政府において買収することを相当と認めるかどうかという都道府県農地委員会又は市町村農地委員会の認定を主観的要件とし、かつ、当該農地が同項第三、四号又は第五号に該当する事を客観的要件とする点において異るところがない。なるほど両者は買収の理由を異にするけれども、いずれの理由によつて買収するかは、いずれの買収計画においても何等これを特定する必要がないのであり、買収の理由の特定は、このような農地買収処分の要素をなすものではない。はたして、そうだとすれば、農地委員会の買収適否の認定は、その買収の理由の如何によつて、その結果を異にすることのない筈であり、右両者の買収の客観的要件の存否如何は、その主観的要件の成否に何等関係がないものといわねばならない。従つて両者の間に行為の同一性が存在するのであり、農地委員会が当該農地を政府において買収することを相当と認めたという主観的な要件が存在するならば、当該農地がたまたま第三、四号に規定する要件を備えなくとも、第五号に該当する農地であれば、買収の客観的要件が存在するのであつて、その農地買収処分は、有効適法なものである。

更にまた原判決は、都道府県農地委員会が訴願手続において、市町村農地委員会の樹立した買収計画の適否を審判するに際して、その樹立した買収計画は、その認定した事実を以てしては違法であるが、他の理由によつて買収するを相当とする場合、右買収計画を取り消すことなくして、これを維持するときは、新たな認定によつて、ここに別の買収計画がたてられたと同一に帰するに拘らず、訴願人はこれに対して異議又は訴願をなす機会を失い保障された権利を奪われる結果となるとの理由を掲げて、神奈川県農地委員会が訴願を棄却したのは違法であると判示しているが、一般に訴願庁は、訴願人の申立に拘束せられず、訴願人の申立がなくとも、職権でもつて原処分の当否を調査するのであつて、神奈川県農地委員会としても、常にこのような態度で訴願の審理裁決に当つているのであるから、前段に述べたように自作農創設特別措置法第三条第五項第三、四号に基く農地買収処分と同項第五号に基く農地買収処分との間に行政行為の同一性を認める以上所論のような違法はないのである。異議又は訴願の道がないとしても、それは訴願手続における当然の結果であつて、やむを得ないことである。ましてこの場合においても訴訟上の救済を求める道は依然として存するのであつて、訴願人の救済に欠けるところはないのである。

以上の次第であつて、原判決は全く法律を誤解している違法あるものといわねばならない。

以上

上告代理人弁護士正木晃の上告理由

原判決は「自作農創設特別措置法第三条第一項各号に基く農地の買収処分と同条第五項各号に基く農地の買収処分とはその理由を異にするばかりでなく、後者の場合には都道府県農地委員会または市町村農地委員会の買収を相当とする認定行為を要する点において前者とその手続を異にするのであるから右の両者は別箇の行政処分と認めるのが相当である」とし、「また自作農創設特別措置法第三条第五項第三、四号に基く農地買収処分との関係においてもそれぞれその理由を異にし、従つて右農地委員会の買収適否の認定も必ずしも同一の結果に帰し得ないことは容易に推測し得られるところであるから右両者の間においても行為の同一性はないものと認めるのを相当とする」と判示して自作農創設特別措置法第三条第一項、同条第五項第三、四号に基く買収計画、同法第三条第五項第五号に基く買収行為とは別箇の行政処分であつて、其の間に行為の同一性がないとしているが、目的物である土地が同一であり、その所有者も同一であるかぎり、その買収の根拠が同法第三条第一項各号のいづれに基くか、同条第五項各号のいづれに基くか、更にまた同条第一項各号、同条第五項各号を通じていづれに基くかによつて買収計画、ひいては買収そのものの効果にいささかも差異あることなく、買収行為は同法第三条に基く限りその項号を異にするとも全く別箇の買収行為ということはできず行為の同一性を異にするものではない。強いて同条第一項の買収と同条第五項の買収との間における差異を求めるならば同条第五項の買収の場合には一定の要件の外に都道府県農地委員会または市町村農地委員会が買収することを相当と認めるという要件が加はつているに過ぎずここに買収することを相当とするや否やの認定は当該農地委員会の自由裁量に委ねられているものであつて、その認定の基準となるものは少しも存しないのであるから、農地委員会の決議によつて買収計画がたてられたそのこと自体のうちにその要件は満されているものといわねばならない。従つて同条第一項に基くか同条第五項に基くかを区別する実益はないのであり、同法第三条に基くかぎりその基くところの項号を異にするとも他の基本事実が同一である以上、買収計画もまた同一のものといわねばならない。

更に原判決は「同法第三条第五項第三、四号に基く農地買収処分と同項第五号に基く農地買収処分との関係においてもそれぞれの理由を異にし、従つて右農地委員会の買収適否の認定も必ずしも同一の結果に帰し得ないことは容易に推測し得られるところであるから右の両者の間においても行為の同一性はない」と判示しているが既に前述の通りの理由によつてその間に同一性を否定する謂われなく、殊に同条第五項第六号(本件買収計画当時の法律)の場合には自作農創設特別措置法施行令第四条の規定により買収適否の認定権は市町村農地委員会に専属しているが、その他の各号の場合においては都道府県農地委員会もまたその認定権があることが明らかであるから原判決のいう如く「買収の認定も必ずしも同一の結果に帰し得ない」との理由をもつて行為の同一性を判別する基準とすることはできない。

更にまた原判決は都道府県農地委員会が訴願手続において市町村農地委員会の樹立した買収計画の適否を審判するに際して、その樹立した買収計画はその認定した事実をもつてして違法であるが、他の理由によつて買収するを相当とするときは、右買収計画を取消すことなくしてこれを維持するときは新たな認定によつてそこに別に買収計画がたてられたと同一に帰するに拘らず、訴願人はこれに対して異議または訴願をなす機会を失い保障された権利を奪われる結果となるとの理由を掲げて神奈川県農地委員会が訴願を棄却したのは違法であると判示しているが、仮りに所論の如く異議又は訴願の道がないとしても、それは訴願手続の当然の結果であつて、都道府県農地委員会は自作農創設特別措置法並に農地調整法の趣旨に照し市町村農地委員会に対する上級監督庁たる性質を備えているものであるから訴願手続においては所謂不告不理の原則に拘束されることなく当事者の要求の範囲を外にして訴願人の不利益に変更処分をすることができるのであつて、これがために更に異議訴願の道がないとしてもそれはやむを得ないことである。ましてこの場合においても訴訟上の救済を求める道は依然として存するのであつて訴願人の救済に欠けるところはないのである。

以上の次第であつて原判決は全く法律を誤解している違法あるものといわねばならない。 以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!